ブログ

TRANOMON HILLS Station
Front Dental Clinic

歯周病と全身の健康に関係があるってほんと?

こんにちは。歯科医師の戸澤です。皆さんはお口の健康が全身の健康と密接に関与しているということはご存知ですか?日本は、世界でも有数の長寿国となっています。一方で超高齢社会となり生活習慣病と言われるような高血圧、糖尿病、脂質異常症から起因する脳や心臓、血管などにダメージを受けた寝たきりや要介護状態等になる患者さんが増加し、深刻な社会問題になっています。国をあげて生活習慣病などを予防する「一次予防」に力を入れ、健康寿命を伸ばしていくことがこれからの医療にも必要です。歯科医療では、歯周病が全身の健康に悪影響を及ぼしていることを示唆する論文が多数出ており、医療界全体で歯周病の予防に力を入れるようになっています。今回は、具体的に歯周病がどのような全身疾患に悪影響を及ぼすのかご紹介したいと思います。

1、 歯周病と血管障害

1、	歯周病と血管障害

歯周病は歯周ポケットと言われる歯と歯茎の間のポケット部分に歯周病原細菌が感染することで歯茎、歯槽骨(歯周組織)の破壊を伴う慢性炎症性疾患です。歯垢は細菌の塊で、歯磨きなどの清掃が行き届かないとあっという間に量が多くなります。どんどん増えた細菌の中でも酸素が少ない状態で増える菌を嫌気性菌と呼びます。この嫌気性菌が歯肉を攻撃し身体に侵入していくことで歯周病は進行していきます。歯周病の初期である歯肉炎で歯茎から出血が見られるのは、歯周病菌と患者さん自身の免疫細胞である白血球が戦っているからなのです。その状態が続くとどんどん歯周組織を破壊していき炎症を繰り返します。お口の中で常に炎症が生じていると、炎症によって出てくる毒性物質が歯茎の血管から全身に入り、さまざまな病気を引き起こす、あるいは悪化させる原因となります。
動脈硬化はご存知の方も多いと思います。動脈硬化というのは動脈の内側にプラークと呼ばれる脂肪性の沈着物が形成され血栓ができることで、血液を送る血管が狭くなったり、塞がってしまい心臓や脳に血液供給がなくなり狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こします。脳梗塞では、歯周病の人はそうでない人の2.8倍脳梗塞になりやすいと言われています。動脈硬化は食生活の乱れや運動不足、ストレスなどの生活習慣病が要因とされていますが、歯周病原菌が血管の細胞に侵入し、動脈硬化を誘導する炎症性サイトカインを上昇させるという報告があります。歯周病原菌の中のPorphyromonas gingivalisが動脈硬化と特に関連があることが研究でも報告されており、歯周病の治療によって動脈硬化性疾患のリスクマーカーを改善することがわかってきています。

2、 歯周病と糖尿病

2、	歯周病と糖尿病

糖尿病と歯周病はかなり前から相互に関連していると言われています。糖尿病が歯周病の進行を促進し、一方で重症化した歯周病が糖尿病の病態に負の影響を及ぼすという報告がたくさんあります。具体的には歯周病による炎症がインスリンの抵抗性を引き起こし、ヘモグロビンA1cの悪化に関与することがわかっています。歯周病菌は炎症を起こしている歯茎から簡単に血管内に侵入し全身に回ります。血管に入ってしまった細菌は死んでしまいますが、歯周病菌が死滅した後に持っている内毒素は血液中に残り血糖値に悪影響を及ぼします。内毒素はTNF-αという血液の中の糖分の取り込みを抑える働きがあり、血糖値を下げるホルモンの働きを邪魔してしまいます。特に歯周炎によるインスリンへの抵抗性は、脂肪組織や肝臓で引き起こされると考えられています。2型糖尿病の患者さんで重度歯周炎を合併している方に、炎症を極力低下させるような歯周治療を行うと、TNF-α濃度も低下し、ヘモグロビンA1cも改善することが結果として得られています。歯周炎による慢性の炎症が全身に影響を及ぼすことはもう皆さんご理解いただいたと思いますが、歯周病も糖尿病も生活習慣病です。生活習慣病は毎日の食生活の見直しによって改善されるのです。つまり、歯周病を予防すること、治療してコントロールすることで、全身の生活習慣病を予防することにもつながります。

3、 歯周病と骨粗鬆症

3、	歯周病と骨粗鬆症

骨粗鬆症は、全身の骨強度が低下し、骨が脆くなることでぶつけてしまった、転んでしまった際などに骨折しやすくなる病気です。骨粗鬆症の約90%が女性です。特に、閉経後骨粗鬆症は、閉経により、卵巣機能が低下することによって、骨代謝に関与するホルモンのエストロゲン分泌が低下し発症します。エストロゲンの分泌が少なくなると、全身の骨が脆くなります。これまでの研究から、全身の骨と歯を支える歯槽骨とは相関性があり、全身的な骨粗鬆症が顎骨にも影響を及ぼすことが考えられます。また、すでに歯周炎である患者さまで骨粗鬆症を有する方は歯槽骨の吸収がより強いこと、骨粗鬆症により全身的に骨密度が低い方は歯周炎の進行の危険度が高いという研究結果を報告している論文もあります。現在骨粗鬆症の治療薬は、歯を抜くなどの外科処置後に顎骨壊死を起こす副作用がないものもあり、歯科治療の制約もなくなってきています。しかし、歯周炎になってしまうと骨の喪失はより進行しやすく、重度歯周炎になりやすいこと、結果、ご自身の歯を失う可能性が高くなる可能性は十分にあります。また、歯が喪失し、咀嚼能力が低下してしまうことで、食物の消化吸収力の低下を招き、ビタミンD、カルシウム不足、低栄養になりやすく、骨粗鬆症の原因になる可能性も指摘されています。健康寿命をより長くする因子に歯周病と骨粗鬆症の予防、治療が効果的であることも推測されています。

4、 歯周病と低体重児、早産

4、	歯周病と低体重児、早産

妊娠されている妊婦さんには歯科検診があります。それは、妊娠すると女性ホルモンであるエストロゲンが歯周病原細菌の増殖を促すことや、プロゲステロンというホルモンが炎症の元となるプロスタグランジンを刺激し、妊娠性歯肉炎が起こりやすくなるからです。また、妊娠している女性が歯周病に罹患している場合、低体重児や早産の危険度が高くなることが指摘されています。その危険率は実に7倍にものぼると言われ、タバコやアルコール、高齢出産などよりもはるかに高い数字です。妊娠前の検診や妊娠中も歯周病予防を行うことが大切です。

5、 歯周病と誤嚥性肺炎

5、	歯周病と誤嚥性肺炎

正しい嚥下というのは「食べ物や唾液を認知し口から取り込み、食道を通って胃へと運ぶ動作」です。一方で誤嚥とは、「食べ物や唾液が誤って気管や肺に入っってしまうこと」を言います。特に高齢になると嚥下反射や咳反射が低下するため、誤嚥が起こりやすくなり、唾液中の細菌などが肺に感染して誤嚥性肺炎を起こしてしまう可能性が高くなります。誤嚥性肺炎の3大リスク因子を下記に示します。

① 口の中や咽頭部の細菌の増加

口腔ケアが不足してしまうことや唾液が減少し自浄作用と呼ばれる唾液によって洗い流す力が弱ってしまうと細菌が増加します。特に誤嚥性肺炎を起こす細菌の多くは、嫌気性菌(酸素のないところで発育する菌)です。歯周病原細菌は酸素の少ない歯肉の中で増える嫌気性菌で、誤嚥性肺炎で見つかる菌の中心なのです。

② 口腔機能の低下

脳梗塞などの脳血管障害の後遺症により嚥下反射などのが低下、あるいは舌癌などの口腔癌手術後の咀嚼嚥下機能の低下によるもの

③ 免疫力の低下

加齢変化、糖尿病や低栄養などによる免疫力の低下によって免疫力が低下する

誤嚥性肺炎を予防するためにはお口の中を清潔に保つこと、食べたり飲み込んだりする咀嚼嚥下機能が衰えないような飲み込む筋肉を鍛える運動などがとても有効です。

まとめ

歯周病は慢性炎症性疾患であり、お口の生活習慣病と言われます。近年、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病との関連以外にも、認知症、癌など全身疾患との関連を報告する論文も多く見られるようになってきました。歯周炎に罹患していることで、お口の中には常に炎症性の物質が排出され唾液や血液を通して全身に波及します。今後の歯科医療は歯の健康だけでなく、全身の健康につながる一次予防に力を入れていく必要があると考えています。歯科の分野でも全身との関わりが特にあるのが歯周病です。歯周病を予防、治療することで歯の健康が得られるだけでなく健康寿命の延伸にもつながります。日々のケア、定期的なメインテナンスで全身の健康につなげましょう。

 虎ノ門の歯医者
「虎ノ門ヒルズ駅前歯科」

〒105-0001
東京都港区虎ノ門1-21-19 東急虎ノ
門ビル1F
Tel:03-3500-3630

診療時間 月  10:00~18:30
火  10:00~19:30
水  10:00~19:30
木  10:00~18:30
金  10:00~18:30
土  10:00~13:00/14:00~17:00 ※不定期
休  診 日曜・祝日